(アーユルヴェーダを求めてインドに渡る)
20年前、個人サロンオーナーだった私は、自身のお客様の為に、より効果的な価値ある粧材を求めて、混沌としたインドに旅立った。
それは、本物のアーユルヴェーダを正規ルートで日本に送り込むという、私にとって壮大なミッションの始まりだった。
ヤギやウシはもちろん、象やラクダも一緒に走る道路、たまに逆走してくるオンボロの車に驚きながら、毎日インドの街に繰り出した日々が、今となっては懐かしい。
当時、アーユルヴェーダのプロダクツを日本に化粧品として輸入することにした私は、そのための会社を日本で立ち上げた。
名前は「アユス」。
由来はもちろん「Ayuruveda」の「ayur」からとった。
日本語では「生命」とか「寿命」の意味になる。
日本で名前をつけた時には、可愛らしくて気に入っていたのであるが、インドでのミーティングの際は、決まって恥ずかしい思いをしたものだ。
名刺交換をするたび「株式会社『命』です」と言っているようなものだと思うと、相手の意味深の笑顔が気になって仕方がなかった。
実は、インドで本物のアーユルヴェーダといっても色々ある。
「何が本物で、何が本物でないか」と、私は今でも考える。
アーユルヴェーダは「生命の科学」、もっと言えば「生きるための知識」と考えると、全てが本物だ。
私たちの健康に役立つための知識は、広義の意味では全てアーユルヴェーダであり、本物なのだ。
さて、インドでは様々な場所を訪ねた。
現地のクリニックにも勿論行ってみた。
クリニックのドクターは「病気の治療ではなく、単にマッサージを受けてみたい」という、私の素朴な願いを叶えてくれた。
トリートメント室で、恐る恐る木のベッドに横たわる私に、一人のおばあさんセラピストが無言で、ガラス瓶に入った真っ赤なオイルを全身に降り注ぎ、マッサージをしてくれた。
私は「綺麗な色のオイルだ」と、感動しながら身を任せていた。
しかしトリートメント終了後、シャワーを求めた私に怪訝な顔をしたおばあさんセラピストは、古ぼけた手ぬぐいを渡して行ってしまった。
しばらくポカンとした私は、その古ぼけた手ぬぐいで全身をぬぐい、お気に入りのシルクのワンピースに着替えた。
その後、ホテルに戻った私は、ワンピースをゴミ箱に捨て、慌ててバスタブに浸かることになる。
まるでギャグのようなインドでの日々で、私は色々なことを学んだ。
インドのドクターが「人は身近な自然で健康になれる、日本には、日本に伝わる健康法はないのか」と言った。
おっしゃる通り、わざわざ苦労してインドまでやってきた私には、痛い言葉だった。
私の頭の中はぐるぐる回った。
日本人とインド人は、そもそも人種が違う。
でも同じ人間に変わりない。
インドは暑い。
でも日本は暑かったり、寒かったりする。
食べ物も違う。
私にはスパイシーなカレーを毎日食べるのは無理だ。
文化も違う。
インドは徹底的なワーキングシェアだ。
言葉の壁もある。
私は英語もインド語(ヒンディー語)も話せない。
通貨も違う。
ルピーからドルに変えて円になる。
今更思う、大丈夫なのだろうか。
インドでの滞在も僅かばかりとなり、最終局面に差し迫ってきたある日、私はシロダーラのトリートメントを受けるべく、埃っぽいデリーの街をさまよった。
それまで、これというプロダクツには巡り会うことができずに、サンプルの化粧品だけが山のようにホテルの部屋に積まれていった。
やっとついた施設で、なんとトリートメント初日にはシロダーラは行わないのだと、ドクターに断られた。
ここまできて引くわけにはいかない。
「そこをなんとか」と粘りに粘った私に助け舟を出してくれたのは、運良く巡り会えたオーナー女史だった。
彼女の鶴の一声で、めでたくシロダーラのトリートメントを体験することができた。
それがどんなトリートメントだったのか、施術中すっかり寝込んでしまった私にはさっぱりわからなかったが、温かいシャワーを丹念に浴びた後、目にした世界は、今までとはまるで違った別世界だった。
視界はクリアになり、気分も良く、笑顔が自然に溢れ出ているのが自分でもわかった。
「さっきと、まるで別人みたいだ」
「どうしてそんなに優しくなれるの、そんなにいいものだったの」
「トリートメントは?」
と、同行したスタッフは驚いた。
マッサージが良かったのか、シロダーラが良かったのか、その後のサウナが良かったのか、プロダクツが良かったのか、はたまたシャワーでホッとしたのか、本当のところはなんだかよくわからなかったのだが、とにかくピンときたのだ!
私は、ここのトリートメントとプロダクツを日本に持ち帰ることを決意した。
私の経験上、この仕事(施術)においては、結果が全てだ。
私がこの施設のトリートメントを受けて元気になったのは紛れもない事実だった。
目がよく見えて、鼻歌も高らかに、笑顔が満ち溢れ、なんとカレーも美味しく感じることができるではないか。
五感が研ぎ澄まされるとはこのことだ。
健康の私ではあるが、より健康になったことを実感できた。
肌つやもよく綺麗になれた。
これでいい!
オーナー女史は、笑顔で言った。
「アーユルヴェーダはバランスの追求よ」
「あなたがこのトリートメントとプロダクツを持ち帰りたければ、サポートしましょう」
「でも、日本とインドでは、いろいろなことが違う」
「あなたはこれを使って、あなたの信じるアーユルヴェーダをすれば良いのよ」
【コラム筆者】
アーユルヴェーダスパ・カイラリ 西田若葉さん
(アユス)
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