岩波書店さんが出してくれた拙著「スローミュージックでゆこう」に書かせて頂いたけっこう重要なテーマのひとつに、「世界の音楽は、大別して二つのタイプの人間によって創られた」という持論があります。
二つのタイプの人間を一言でいうと「自然と恐れず向かい合い、愛しく思う人間」と「自然を恐れ自らを守らんとする人間」で、前者の音楽は、今日でさえ手作りのか細い音の楽器で奏でられ、後者の音楽は、今日私たちが日頃耳にする、極めて多様かつ高度に発展した音楽の系譜です。
勿論、両者の原点が生まれてから数千年の歴史の中では、両者の折衷のような音楽も無数に生まれたに違い在りません。
が、原点の性質は、その後の音楽にも確かに見て取れるように思います。
そして、何より、それぞれの精神性は、その後の人間の生き方の違いを象徴しており、物質文明や西洋化学対処療法一辺倒ではなく、精神世界のことや、自然治癒、全身療法について学ぼうと思うならば、前者のことに考えを及ばせる必要があるに違いないとともに、私たちが如何に後者の人間が作った社会に守られ、慣らされて来たかをも、改めて考え直す必要があると思います。
私は、前者の音楽を創造した人間を「森の人」と名付け、後者を「松明(たいまつ)の人」と名付けました。
森の人は、太陽が昇れば起き沈めば眠り、その日の糧は日中に食べ尽くし、暗闇の物音や野獣の遠吠えも恐れず、仮に寝込みを襲われ喰われたとしても天寿と思う様な人間でした。
対する松明の人たちは、暗闇とその物音を恐れ、一晩中松明を炊き、番人を置いてやっと安心して眠るような人間でした。
番人の当番制などに原点を見る「規則」や「掟」を考え出し、次第に社会性の原型が生まれます。
ところが、やがて彼らが気づく「最も恐ろしい敵」は、同じ人間だったというシナリオです。
前者の音楽は、おそらく今日僅かであっても生き残っていると思うのですが、流石にこの数十年の世界の変貌振りは異常ですから、絶滅危惧は否めません。
例えば中南米やマレー半島、ボルネオ島などの森林の奥に住む、いわゆる「裸族」などと呼ばれる人々の音楽は、楽器らしいものなど殆どなく、あったとしても草笛か、竹の表皮を剥がして弦にしたような楽器です。
誰に聴かせる訳でもなく、何がしたくて奏でているのやら?
後者の音楽形態を常識と考える私たちにとっては、とても不可思議な音楽です。
ところが後に、意外なところで、この「森の人の音楽の意味(心)が分かったのです。
都下・吉祥寺で20年続けた(必然的に日本初でした)民族音楽のライブスポットを閉めた後、人生でやり残したことをがむしゃらに再開した頃、日本の伝統邦楽の修行と共に、幼少期には昆虫学者になるつもりだったほど打ち込んだ昆虫飼育を再開しました。
今振り返って、沢山の猫たちの猫溜まりと暖かい陽射しに埋もれ、隣の部屋から聞こえる数十種のキリギリス類の鳴き声を聞きながらウトウトするあの時間は、その後の苦労は当然と思える程、我が人生至高のひと時だったと思います。
そして、「はたっ!」と気づいたのが、
「ああ、森の人は、昆虫や鳥が鳴くのを見聴きして、羨ましかったんだ」
という発見でした。
数千年経った後、森の人たちの中からも、ささやかな集落を築く人々も現れました。
しかし音楽は、相変わらずの感覚で奏でていたようです。
日本の昔にもあった「歌垣」という風習に見られる音楽です。
インドシナ半島北部の「焼き畑農業」などをする移動民族などでは、今日でも自作のつぶやくような歌や小さな手作り楽器を奏でる「集団見合い」が行われています。
せっかく音楽は、森の人の伝統を継いでいるのに、「焼き畑」という手法が自然破壊ではないのか?と考えると疑問が残らない訳ではありませんが。
音楽が自分とその家族の為だけにあるような、素朴極まりない音楽です。
もしかしたら「キリギリスと一緒にするのか?」とおっしゃるかも知れませんが、生涯たった独りの伴侶と巡り会うためだけに、互いに距離を置いて丘の上でか細い自作の音楽を奏でる男たちの姿は、草原のススキの葉にしがみつき独り鳴き続けるキリギリスの雄そのものです。
前回、このコラムの初回で、音楽の原点が「シャーマン音楽」である、と述べましたが、実は、その前に、このような「森の人の音楽」があったのだろう、ということなのです。
そして、この「森の人の音楽」から、シャーマンの音楽が生まれているのだろう、というのが私の持論なのです。
若林忠宏
(民族音楽研究演奏家/民族音楽療法士/アーユルヴェーダ音楽療法研究家)
(若林忠宏さん・プロフィール)
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