古代インドで生まれた、おそらく世界最古の論理的に理論が構築された「音楽療法」は、ブラフマン教~ヒンドゥー教の寺院に於いて、卓越した僧侶たちの探究心によって培われたと言われます。
それは、言うまでもなくアーユルヴェーダの治療法のひとつでありました。
それを「Raga(ラーガ/旋法)-Chikits(チキツァ/治療)」と呼ぶ人もいますが、「Raga」の呼称が文献上で確認出来るのは9~10世紀と、インド古代文化の歴史から見れば最近のことですから、「Raga-Chikitsa」は、後世の呼称ということになるのですが、それ以前の呼称は不明とされています。
しかし、そもそも古代インドに於いて音楽は、「寺院音楽」と、その他の「民衆音楽」とに大別されていましたが、後者も、村々の冠婚葬祭や収穫を祈願する言わば宗教音楽であった訳ですから、音楽の二種類は「寺院の中と外」のような分類であり、いずれも「宗教音楽」だったのです。
しかし、民衆音楽は、完成された楽曲を先祖代々ひたすら忠実に受け継いで来たものであるのに対し、寺院の中では、音楽の真理を追求するという科学的な探求もありました。
つまり寺院音楽の中に、確立された儀礼音楽の他に、その名も「科学音楽(Shastriya-Sangit)」という特殊な音楽があったのです。
これは世界でも類を見ないインド独特の概念ということが出来ます。
つまりその時代の音楽は、今日私たちが楽しんだり元気になったり癒されたりする音楽とは全く意味が異なるものであり、ヨガや瞑想と同じ感覚のものであったのです。
故に、とりたてて「療法のための音楽」という呼称を考え出す必要が無かったのが、呼称が無い理由なのだろうとも言える訳なのです。
もっと古代に話を移しますと、インドに限らず世界の様々な地域で、音楽はほぼ全て「治療目的」及び「神々との交信(もしくは降霊)」の為に存在しました。
いわゆる「シャーマン(祈祷師)」の音楽です。
おそらく千数百年から何千年、世界の何処であろうと、音楽は、シャーマンのみが奏でていたのだろうと思われます。
ところが、集落が次第に社会に発展してゆくのに従って、身分階級や専門職が確立され、その結果、宗教儀礼音楽や軍楽などを、シャーマン以外の人間が奏でるようになったと考えられます。
しかし、それでも音楽は、限られた機会に限られた人間のみが奏でていた訳です。
想像してみて下さい。
儀礼も祭礼も行われていない時期、TVもラジオも何もなく、機械音もしない世界では、鳥や獣や昆虫の鳴き声と、風で木々が揺れきしむ音しかしない。
その様な自然音しか無い世界で日々暮らしている人間にとって、奏でられた楽器の音や、楽器の様に訓練された人間の声は、どれほど強烈なインパクトを与えたことか。
それは果実の甘みしか知らない人間にとっての砂糖や、葱や生姜の辛さしか知らない人間にとっての唐辛子の様なものだったのではないでしょうか。
逆に言えば、溢れる音に浸らされて暮らす今日の私たちが、「Shastriya-Sangit(インド古代科学音楽)」や「Raga-Chikitsa(ラーガ療法)」の音楽に効果効能を得るためには、何ヶ月何年か人口音を断って籠るか、ヨガや瞑想などの力を借りてリセットしなければ、本来の効果は得られないだろう、ということも言えるかも知れないのです。
若林忠宏
(民族音楽研究演奏家/民族音楽療法士/アーユルヴェーダ音楽療法研究家)
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