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インド・プネにあるワゴリ・アーユルヴェーダ大学に留学中の大橋美和子さんより、現地のアーユルヴェーダ事情や生活の様子についてご紹介くださいます。
(大橋美和子さん)
薬剤師。2009年からインド・プネのワゴリ・アーユルヴェーダ大学に留学中。
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浄化療法真っ最中です。
ワゴリでパンチャカルマといわれる治療を受けるため学内の病院に入院しています。
実は、来月に大学の進級試験を控えており、焦り気味だったのですが、この時期を逃すと私の体質的にバランスを取り戻す治療を受ける季節が過ぎてしまうので決心しました。
今は、モンスーン(雨期)からリトルサマーともいわれるシャラダルトゥトという少し陽射しがあつくなる秋です。
早朝でも、気温は26度くらいあります。
陽が沈むとひんやりしますが、日中は直射日光が暑く感じられ始めました。
ここ1週間ほどは全く雨も降っていません。
モンスーン中は、雨が降って、体が冷えています。
曇り空も多く、風が吹いて、日光にあたることが少なく、消化力もまちまちです。
アーユルヴェーダで、「ヨーグルトをお日様の出ていないときには食べないように」と初めてきいたときには、驚きました。
また、一日で一番多くの食事を必要とするのは昼食であり、夕食は軽めにすませるように、ともいわれます。
つまり、太陽がでているときは、体もあたたかく、食事を消化できる力が十分あるのですが、太陽がでていない夜や曇っているときは、不十分だと言うことです。
そのような、天候の乱れる雨期に一番影響を受けるのが、「地水火風空」、のなかでも「空」と「風」=「ヴァータ」です。
ヴァータの乱れが消化力の乱れを引き起こし、弱っている体のどこかに病気の元になる未消化物(アーマ)をためる原因となります。
胃腸を炊飯釜にたとえてみると、御飯の炊き具合が悪く、生煮え又は、こげてしまった状態(未消化物=アーマ)です。
これがいわゆるデトックスで取り除くべき毒ともいえる、病気のもとです。
本来、炊けた御飯(消化後の食物)は栄養素(細胞、組織)または、排泄物(尿、便、汗)となります。
ところが、お釜(胃腸)の御飯(消化後の食物)がうまく炊けていないときは、生煮えの御飯(アーマ)を作り出し、それが排泄されず、腸などにこびりつきます。
例えば、腸からのカルシウムの吸収されるとき、関節に行き渡り、膝などにアーマがたまると、関節が痛くなったりはれたりといった原因の一つとなります。
つまり、体のバランスが崩れ、お腹のお釜の御飯の炊き具合が悪くなると、生煮え栄養(アーマ)が、体の弱点にたまってしまい、病気をおこすのです。
アーマが体にたまり始めると、体は様々な不調や病気の前兆または症状を表します。
そこで早いうちにアーマをためないように食事や生活に気をつけたり、ハーブを内服したり、老廃物(アーマ)を排泄する浄化療法を受ける事によって、病気の予防や治療ができるのです。
その浄化療法は、「パンチャカルマ」とよばれます。
5つ(=パンチャ)の方法で行う(=カルマ)という意味です。
今回、私が受けているのは、「バスティ」といわれる方法(主にハーブや薬用オイルを肛門に入れる)です。
主に下腹部から排泄されずにたまっている老廃物(アーマ)をとりのぞきます。
今、ちょうど季節的にこの場所にアーマがたまりやすくなっているので、一番効果的です。
便秘や膨満感、慢性的な発熱、生殖器系の疾患、腎臓結石、心臓の痛み、背痛、座骨神経痛、その他の関節痛、関節炎、リウマチ性関節炎、痛風、筋肉のれん縮、頭痛など、この時期はこういった症状がひどくなりやすいです。
私は、数ヶ月前に姿勢を崩して、腰をひねり、痛みで右足の下肢関節が急に動きにくくなってしまいました。
また他にも気になることがあり、来月進級試験を控え、ストレスもたまってきているので、今回の浄化療法を受ける事にしたのです。
今日で、10日目の治療を終えています。
毎日、人肌に温めた温かい薬用オイルをたっぷり塗られます。
すぐさま薬用蒸気であたためられたスチームボックスに入ってたくさん汗をかきます。
肛門から薬用オイルを入れ、腸にたまったアーマを排泄します。
これが主な治療内容です。
さらに、ひねった腰のせいで開きにくくなった右脚の大腿筋を薬用ハーブやオイルを布でくるんで温めながらマッサージするピンダスウェダという方法を7日間処方されました。
8日目以降は、腰の真ん中に丸く小麦粉で練った土手を作って温めた薬用オイルをためる「カティバスティ」という治療をうけています。
7日目あたりからは、30度くらいしか開かなかった右足が、90度開くようになり、蓮華座を組めるほどになりました。
痛みも減ってきています。
その他に、興味深い治療も受け始めました。
まず、今日で2回目となる治療ですが、5つの浄化療法(パンチャカルマ)の一つ、ラクタモクシャナ(瀉血法)といいます。
特別な種類の蛭に汚れた血を吸わせる方法です。
なんと、眼の横に3センチほどのヒル(蛭)を張り付かせます。
40分から1時間くらいすると、2倍ほどの大きさに膨らみます。
この種類の蛭は汚れた血だけを吸い、お腹いっぱいになると口を離します。
始めは、ぎょっとしましたが、ちくっとさすような痛みが始めにあるものの、あとはまったく感覚がありません。
都合のいいことに、蛭は、血を吸いながら、ヘパリンという血を固まらせない成分と一緒に、麻酔作用のある成分を吐き出しているのだそうです。
そのため、最近では、注射器で行う事もありますが、蛭が好まれます。
この治療は、夜かすみがちだった眼について、アーユルヴェーダの眼科専門医に見てもらったことがきっかけでした。
左眼の眼圧がやや高めでした。
まず、眼を煎じ液で洗う治療(ネトラダーラ)を3日前から始めました。
眼に温かい薬用煎じ液を注ぎ,洗います。
それから冷ます効果のある薔薇の花びらでまぶたを覆って30分ほど眼を休ませます。
それを毎日受けながら、2日に一度、蛭に血を吸わせる治療を受けています。
これは思いがけない治療だったのですが、蛭が血を吸った後、お皿に吐いているのをみると黒ずんでいて、いかにも悪そうな血がでているのをみるとスッキリです。
まぶたを軽くマッサージされたときの痛みもなくなりました。
夕方、外を歩きながら、ふと、ひさしぶりに遠くの丘や空を眺めていることに気がつきました。
いつも本やパソコン、携帯など近くをみる事が多くて、すっかり眼の緊張を高めていたようです。
さて、先月末にはプネ市内で一番多くお祭りされているガネーシャ神のお祭りがありました。
毎年この時期は、とてもにぎやかです。
町内ごと、家庭毎に特別にガネーシャ神をおまつりします。
2日から10日間華やかな祭壇におまつりして川に神様をお見送りします。
大学でも5日間吹き抜けの建物の中央のホールにガネーシャ神をおまつりして、お坊さんが火を焚きながらお経を唱えます。
女性は皆サリーをきて、先生も学生もとてもにぎやかに楽しんでいました。
お坊さんと言えば、3日ほど前に、一大イベントがありました。
インドのお坊さんの中でも神様のように敬われている「シャンカラチャーリヤ」がワゴリを訪れられたのです。
サダナンダ先生の脈診を受けるためにインド北部のリシケシュから来られました。
その前日、学内のお寺の入り口に牛糞を敷き詰めていた様子をみて何だろうと思っていました。
翌朝、固まった牛糞の上に「ランゴリ」といわれる砂絵できれいに歓迎の模様を描いて、橙色の天幕を張ってお迎えの準備をされていました。
先生も学生もスタッフも皆、行列にならんで、祝福をいただきました。
こういった行事も突然起こるので、予想外の出来事に戸惑う事も多い毎日ですが、少しずつ気持ちの余裕もでてきたような気がします。
最近は、治療中なので、部屋で簡単に出来るoshoの瞑想法を続けています。
「こころでからだの声を聴く」というCDを使っています。
リラックスした状態で、からだの不調を無意識に作り出している原因はなにか問いかけています。
せっかく浄化療法で改善しても、また同じ原因を繰り返してしまっては元も子もありません。
12年前、初めて浄化療法を受けた後は、治療後もどんどん体調が良くなりました。
3ヶ月ほどして、すっかり体調が良くなりました。
そこで、なにも知らずに、以前と同じような食事、生活を再開したとたん、体調を崩した経験があります。
しかし、その一時の体調の良さは、今までに体験したことがありませんでした。
それ以降その感じを健康として求めるよいきっかけとなりました。
今回の治療は、まだあと数日あります。
前回は内服用にハーブが処方されていましたが、今回はまったく薬らしいものを飲んでいません。
もちろん肛門から薬用オイルなどは処方されていますが、関節の痛み止めなど一切ありません。
食事とパンチャカルマだけで、しかもまだ10日ほどで、随分効果が出ているのは驚きです。
インド・プネのワゴリ・アーユルヴェーダ大学より。
大橋美和子