8月の南インド・ケララの旅では、以前から勧められていたインド占星術のプージャを受けることになりました。
アーユルヴェーダと同じく、ヴェーダ思想を源とするインド占星術は「ジョーティッシュ」とも呼ばれます。
アーユルヴェーダにおいて、私たちの身体のドーシャの働きが、季節や生活する地域や環境から影響を受けると考えられているのと同じように、「ジョーティッシュ」では、天空の星々の配置や動きが、私たちの身体のバランスはもちろん、人生の流れにも影響を及ぼすと考えられています。
月の満ち欠け、つまりは太陽と月の相対的な位置関係と動きが、地上に潮の満ち引きを起こすのと同じように、天空の惑星の配置や動きが、私たちの身体や周囲の環境に、少なからず影響を与えるとされているのです。
今回、私が南インド・ケララで与かったプージャは「ナヴァグラハ・プージャ」。
ナヴァグラハとは、星々の中でも私たちの生活により近い、「太陽」「月」「火星」「水星」「木星」「金星」「土星」、これに太陽と月の交点「ラーフ」「ケートゥ」の2つを含めた9つの惑星を指し、ヒンドゥー教では9つの星々にはそれぞれ神々がおられると考えることから、この「ナヴァグラハ・プージャ」は、9つの惑星の神々に祈りを捧げるものとされています。
プージャ自体は、まずプージャがつつがなく行えるようガネーシャ神へ祈祷する「ホーマ/護摩(1時間30分程)」から始まって、その上で本来の「ナヴァグラハ・プージャ(2時間30分程)」が行われます。
ヒンドゥー寺院におけるプージャについては、個人が願主として行われるプージャでも、丸3日かかるものや、中には数週間に及ぶものもある中、今回の「ナヴァグラハ・プージャ」は4時間程のものでしたので、プージャの規模としては決して大きなものではありません。
それでもこうした儀式に慣れていない日本人にとっては、4時間にわたる祈祷というのは少々長く感じられました。
さて「ナヴァグラハ・プージャ」では、9つの星々の神様へも「ホーマ(護摩)」が行われますが、このとき、それぞれの神々が好むとされる、9つの植物と9つの穀物がホーマの炎にくべられていきます。
(9つの植物)
・太陽/アコン(ガガイモ)
・月/ハナモツヤクノキ
・火星/アセンヤクノキ
・水星/インドイノコズチ
・木星/インドボダイジュ
・金星/ウドンゲノキ
・土星/ベンジャミンゴムノキ
・ラーフ/ギョウギシバ
・ケートゥ/クシャソウ(クシャ草)
(9つの穀物)
・太陽/小麦
・月/米
・火星/キマメ
・水星/ムング豆
・木星/ヒヨコマメ
・金星/白インゲンマメ
・土星/黒ゴマ
・ラーフ/黒緑豆
・ケートゥ/ホースグラム
これらの植物はヒンドゥー教の宗教儀式によく使われるものですが、アーユルヴェーダの薬草としても用いられるものがあります。
こうしたヒンドゥー教の儀式で使われるものは、その多くがインドの伝統思想に拠るところ多く、したがってアーユルヴェーダやヨーガで取り上げられるハーブや薬草が、その由来から儀式でも用いられることは、自然なことかもしれません。
プージャでは「プラサーダム」というおさがりがありますが、この「ナヴァグラハ・プージャ」では9つの種類の、「パヤサム」という南インドの伝統料理に出てくるデザートを頂きました。
「パヤサム」は、ココナッツミルクや牛乳と穀類と一緒に甘く煮詰めたものですが、ホーマにおいて神々に捧げられる9つの穀物を使い、お供えとして9種類の「パヤサム」を作り、儀式の終わりに参加者がいただく慣わしです。
「神々に捧げる植物をホーマの炎にくべるときは、煙がたくさんでるようにいぶすんだ」
「たくさん煙を出すことで、願主の身体の中から、よくないカルマを外に出すことにつながるんだよ」
僧侶の方から説明をいただいて、儀式としてという意味だけでなく、昔の人は燃やされるハーブや薬草の煙にも、何らかの薬効がある等とも考えていたのではないだろうかとも思いました。
夜明け前の午前5時から4時間にわたって行われた「ナヴァグラハ・プージャ」は滞りなく終了しました。
インドの伝統文化に触れる機会があるたび、今の日本などにおいて「アーユルヴェーダはアーユルヴェーダ」「ヨーガはヨーガ」「インド占星術はインド占星術」という風に、こうしたインドの伝統的な知識や思想を、どこか区別にして扱ってしまっているように思うときがあります。
「本来、こうした知識や思想の源になるところがひとつのものであったところを、現代の私たちが自分たちに都合のよいように取り分けて扱うことは、こうした知識や思想から、私たち自身が期待する「効果」自体も、却って得にくくなってしまっているのではないだろうか」
南インド・ケララの雨季、小雨が降り注ぐヒンドゥー寺院にて、裸足の足裏から伝わってくる濡れた石の床の感触が、どこか遠い記憶の彼方で、以前に感じたことがあるような既視感を覚えながら、そんなふうなことを感じていました。
【コラム筆者】
アーユルヴェーダライフ管理人
安藤太一
(ホームページ)
アーユルヴェーダライフ