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インド・プネにあるワゴリ・アーユルヴェーダ大学に留学中の大橋美和子さんより、現地のアーユルヴェーダ事情や生活の様子についてご紹介くださいます。
(大橋美和子さん)
薬剤師。2009年からインド・プネのワゴリ・アーユルヴェーダ大学に留学中。
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先月から進級試験の真っ最中、それもあと1日でようやく終わります!
こちらの気候もいつのまにか朝・晩カーディガンが手放せないほど冷えてきました。
半年ほど前から学内試験が行われ、その準備をしていましたが、この間本当に長く感じられました。
今回はこの学内試験がどんな内容なのか、ちょっとご紹介したいと思います。
学内試験は約3週間にわたり、ほぼ毎日、1科目あたり1日~2日の筆記試験と1日の実技試験が行われ、各学年で6科目ずつあります。
試験会場は、学外の他のアーユルヴェーダ大学で行われ、他校の学生との合同試験です。
今回の試験会場は、ユナニ医学の大学でした。
アーユルヴェーダを学ぶ学生はヒンズー教の生徒が殆どといった感じなのですが、こちらはイスラム教徒の学生が多く、女性は黒い服で身を包んでいて、学内の看板表示等もイスラムの文字と英語が並んで表記されています。
とてもきれいで整った大きな設備の大学で、表記のイスラム文字はなんだか星のような文字で神秘的にみえましたが、設備は近代的でゴミも落ちていなくて、とてもいい印象でした。
アーユルヴェーダの大学は全部で3学年あり、1学年を1年半かけて学んでいきます。
私の今回の学内試験は、第2学年から3学年に進級するための試験です。
1学年目は健康について、2学年目は病気について、3学年目は治療について学びます。
今回は、2学年目で学んだ公衆衛生学、毒物学、チャラカサムヒタ、診断学、製薬学、薬草学の試験です。
公衆衛生学には、ヨガや呼吸法も含まれていますが、ウイルス等の予防、国のプライマリケアのシステムなども学びます。
学外研修では、市内の上水道センターや下水道処理センター、感染病の隔離患者の為の病院や、牛乳の衛生管理について工場見学まで行われます。
また「ナチュロパシー」という、自然療法についても少しふれました。
アーユルヴェーダとよく似ている学問で、同じく地・水・火・風・空の要素を原理として取り入れた医学です。
毒物学は、蛇や重金属、有毒植物や毒物についての解毒法や、無毒化する方法などを学びます。
また法医学も含まれており、インドの医学に関する法律等はちょっと馴染みがありませんが、内容は確かに重要なことばかりでした。
チャラカサムヒタは、治療の前に必要なアーユルヴェーダの知識を古典から学んでいきます(治療後の知識については3学年の科目になります)。
古典には、例えば、治療に使う薬や病気について、また不治の病や死が近づいている不吉なサインや夢に関する記述等があり、大変興味を惹かれます。
診断学は、実際に外来・入院の患者さんの診断方法について学びます。
古典の記述と現代医学の両面から、病理学や診断法について練習を行っていきます。
製薬学は、植物を使った製剤に加えて、水銀や重金属、宝石までも使いそれらを浄化し製剤化する過程等も学び、実際の実習も行われます。
ただ全部で約100項目に及ぶ製剤を学ぶのですが、これらはとても1年半で全ての実習を行えるボリュームではなく、実技試験の際には実験書を提出しなければならないのですが、いくつかは「やったつもりで・・・」というのものもありました。。。
それから薬草学。
これが、私は一番好きな科目です。
学外実習では、バスで薬草を学びに日帰り研修に行った事もありました。
学外実習はてっきりどこかの薬草園に向かうのかと思いきや、バスで草の生い茂る湖のほとりに連れて行かれます。
(シャタワリ)
意外にも普通にありふれた道端に、ゴマやアシュワガンダなど、アーユルヴェーダで使われる薬草があちこちにあるのです。
日本やアメリカでは、なかなかアーユルヴェーダの薬草を手に入れる事が難しく、こうしたものはなんとなくヒマラヤの奥地とか、どこか特別な場所にあるものというイメージでしたから驚きです。
この研修であらためて、アーユルヴェーダはインドのありふれた生活に身近な薬草を使っているということを思い出させてもらえました。
これらは、日本でいえばオジギソウやタンポポ等の誰でも知っている野草のようなイメージです。
(ダンタパディ)
もちろんワゴリの大学の敷地内にも薬草園があり、薬局ではそこでとれた植物を製剤化したものが使われています。
講義ではそれらを摘んできて、押し花にしてファイルを作って提出する等の課題もありました。
インドで初めて見る鮮やかな色の花を持つ木や実などの名前や効能について学ぶのは、私にとってはとても面白くて楽しい科目でした。
さて、これら6科目についての筆記試験・実技試験を受けたのですが、なにより大変だったのは、実技試験の際に提出しなくてはならない数々の実験書でした。
各科目において2~5冊もあり、もう不可能といっていいくらいの量なのです。
試験前には筆記試験の勉強もしなくてはならなかったのですが、この実験書を仕上げる為に1ヶ月くらい資料を毎日持ち歩き取り組んで、それでも終わらず、筆記試験が終わってから実技試験の当日の朝までかかりながら仕上げました。
製薬学の実験書は、作り方・準備物・参考文献・必要な薬の量から観察したことまで、100種類分っ!
薬草学も100種類の薬草の押し花、草、木の葉などをまとめなくてはならず、もうまともには出来ない程の量なんです。
あまりにも大変なので、周りの皆はどうやって仕上げているのか不思議に思って聞いてみると、インドの学生たちは家族・友人の結束を固く、なんとお互いに助け合う(?)というインドらしい方法でした。
「あなたの実験書は、誰に書いてもらうの?」とよく聞かれ、最初は「え?なんのこと?そんなの誰にも頼めないでしょう、自分でやるよ。」と答えていましたが、「なるほど・・・」とようやくそういう状況がわかったのは、実技試験が始まってからのこと。
期日が迫る中、本当に終わらなくて困っていたら、「図は下級生か友人に書いてもらわないと終わらないよ!」と上級生からもアドバイスが。。。
実際、周りの同級生に聞いてみると、ほぼ全員が兄弟・友人・母、また下級生達の力を借りている事がわかりました。
特に下級生については、ゆくゆくは自分たちも同じ課題が与えられるため、それらの実験書を引き継ぐ事で助け合っているようなのです。
ともあれ私のあまりの窮状に、同級生の一人が見ていられなくなったようで、私の実験書を1冊持って帰り、彼女のお母さんに頼んで図を書いてきてくれました。
本当に感謝!
普段、地元の学生同士がおしゃべりしているのはマラティー語なので私には理解できません。
皆とても真面目で勉強以外していないかのように思い込んでいたのですが、仲良くなった友人の間では、そうした私に自分達のイメージが悪くなってはいけないからあんまり彼らの普段の話を通訳するな、といって笑っていたとのこと。
よくよく話しを聞いてみると、皆意外と「要領よく」課題をこなしているようで、びっくりしました。
日々の授業では、私は独りで英語で教えてもらっている事もあり、マラティー語で学んでいる地元の学生とはあまり接触がありません。
彼らも英語で話すのが恥ずかしいようで、一部の好奇心旺盛な学生を除いては、どちらかというと縁遠い存在でした。
でも、今回の「試験対策」のおかげで、試験期間中は彼らと毎日一緒に試験を受け、また試験対策を考えたり、あるいは先生の冗談を言ってみたり、とても楽しく過ごすことができました。
学内試験もどうにか終わり、6科目中4科目合格すれば、3学年目に進級できます。
結果が出るのは約2ヶ月先になりますが、今回こうしてせっかく楽しく過ごせるようになった同級生達と一緒に進級できるといいなあ、心から願っています。
ところで余談ですが、今年の入学生からは、大学の進級制度に変更があったようです。
マハラシュトラ州のアーユルヴェーダ大学をまとめている試験センターの委員会のほとんどが新しいメンバーに交代したようで、進級制度も4学年制に見直されたようです。
大まかなには、これまでの1~3学年目を各1年かけて学び、4学年目を1年半かけて学ぶ内容になったとのことです。
アーユルヴェーダ大学に関心のある方がいらっしゃったら、事前に詳細をよく確認してみてください。
アーユルヴェーダ大学生活の中で、私の大好きな昼食は、敷地内にある創立者マハラジのお寺にお供えする食事を振る舞っているプラバタイの手作りのランチです。
彼女の愛のこもった食事は、甘味、塩味、辛味、酸味、苦味、渋味をバランスよく含めてあり、いつもお寺にお供えしてから私たちにも振る舞ってくれます。
この春以来、彼女の食事いただくようになったのですが、そのおかげで午後の授業でも疲れる事はなく、お腹も軽く、エネルギーが沸くようにもなりました。
アーユルヴェーダでは、サトヴィックな食事がよいと言われます。
それは、食べ物が体を作り、心や精神もからだの一部であるということから、精神的バランスも食事によるものだという基本的な考えです。
精神的バランスについては、サットヴァ、ラジャス、タマスという3つの分類があり、その中でサットヴァが最も精神を安定させるものであり、食事もそうした性質のものがよいされます。
たとえば、新鮮な食事、こころこめてつくられた食事など、なるほどどれも当たり前の事ばかり。。。
具体的な食品としては、ミルク、アスパラガス、白米、サツマイモ、緑色野菜、ざくろ、もも、なし、生の蜂蜜、緑豆、などなど。。。
プラバタイは、ワゴリでとれる新鮮な野菜や、牛の新鮮なミルクから作ったギーやバターを料理しています。
数日前には、特別なお客様が来られたため、いつもより品数の多い、ごちそうが用意されました。
アーユルヴェーダの試験中も、食事に関する問題もたくさんありました。
アーユルヴェーダを学んでいると、けっして菜食を勧めているわけではないことが感じられます。
お腹の消化力にあわせて、食べ合わせや食べ過ぎに気をつけたり、食事の時間を規則的にすることなど、当たり前のことができなくなると病気になりやすいのだということです。
肉食を消化する力がないときは、スープにしていただくと良いといわれます。
胃の3分の1を固形、3分の1を汁物、3分の1を空っぽにしておくとよいともされています。
だいたい3分の1というと、各自の両手をあわせて器にしたくらいのイメージの大きさです。
サダナンダ先生の脈診では、よく患者さんに「汁物を多めにしなさい」とすすめられます。
固形食は、消化力が落ちているときは負担になるからです。
私も今回の試験中は、睡眠時間も少なく、消化力が落ちていて、できるだけ汁物を食べようと心がけてはいましたが、だんだん忙しさにかまけてしまいました。
それでもOSHOのこころ・からだの声を聴く瞑想だけは、どんなに忙しくても、からだを壊さないようにと、毎晩寝る前に続けていましたが。。。
口にする食べ物が、毎日毎晩、自然に消化されて体の一部となっているのは本当にありがたいことだなあ、と感じます。
アーユルヴェーダを学びながら、つくづく、当たり前のことを当たり前に必要なこととして思い出させてもらっています。
(食べ合わせの悪い食事の例)
1 |
豆類と果物、チーズ、卵、魚、牛乳、肉、ヨーグルト |
2 |
卵と果物、メロン、豆、チーズ、魚、牛乳、肉、ヨーグルト |
3 |
果物とほとんどの食品を食べる事(例外は、ナツメヤシと牛乳) |
4 |
穀物と果物 |
5 |
生蜂蜜を加熱すること(加熱した蜂蜜は体に毒といわれます。生蜂蜜とは、非加熱処理の蜂蜜で、体によいとされています。) |
6 |
レモンとキュウリ、ミルク、トマト、ヨーグルト |
7 |
メロンと全ての食品 |
8 |
牛乳とバナナ、さくらんぼ、メロン、酸っぱいフルーツ、発酵したパン、魚、肉、ヨーグルト |
9 |
ナス科の野菜(ジャガイモ、トマト、茄子)とメロン、キュウリ、乳製品 |
10 |
大根とバナナ、レーズン、牛乳 |
11 |
タピオカと果物、特にバナナやマンゴー、レーズン、黒糖 |
12 |
ヨーグルトと牛乳、果物、卵、魚、熱い飲み物、肉、ナス科の植物 |
下線部は、特に気をつけたい組み合わせです。
とはいえ、例外もあり、食べ慣れた食事は、それほど負担はかかりません。
たまに食べるのであればそれほど支障もないはずです。
ただ、どうしても「お腹の調子が悪いのかな」と思う事があれば、振り返ってみて思い当たるところがあれば改善してみてはどうでしょう?
また「おなかが疲れているな」と思われるときには、すりおろしたショウガを茶さじ半分に岩塩をひとつまみ足して食前にいただくと消化を助けてくれます。
年末年始、忘年会やパーティなどの機会も多いと思われますが、健康で楽しい年の瀬を過ごせますように。。。。
インド・プネのワゴリ・アーユルヴェーダ大学より。
大橋美和子