アガスティアの葉
2015年8月の下旬、南インド・ケララを再び訪れました。
今回の旅は、前回のアーユルヴェーダ・ホスピタルやクリニック施設の視察ツアーとは異なり、夏季休暇とあわせたプライベート旅行として南インドを訪れます。
2年前の視察ツアーでは日程的に実現できなかった、インドの史跡・寺院巡りやアーユルヴェーダ・リゾート施設への滞在なども、今回の旅では予定しています。
そして、色々な方のお話を聞いて以前から気になっていた「アガスティアの葉」、こちらもこの旅のメイン・イベントのひとつとしています。
「アガスティアの葉」とは、数千年前の古代インドにおいて、聖者アガスティアという予言者が残した「個人の運命に関する予言の書」です。
予言は「葉」を開こうとする人の分しか用意されていないとされ、その人の前世・現世・来世までも語るといわれる、まさにインドの神秘そのものです。
予定している「アガスティアの葉」を体験させてくれる場所は、チェンナイから車で2時間程の場所にあり、ケララからチェンナイまでも国内線で1時間半はかかります。
移動・滞在を含めて2日間は必要となり、今回のようなまとまった日程のとれる旅でもない限り、次回はいつ訪れることが出来るのか。
色々と考え、思い切って今回の旅の中でチェンナイ「アガスティアの葉」も訪れることにしてみます。
8月23日、前日の深夜に南インド・ケララに到着するも、この日の夕方18時、早々に国内線でケララ・コーチン空港からチェンナイに移動します。
前日の夜は、友人のマミさんのご自宅に宿泊させていただいたため、朝から今後の行動スケジュールについて、マミさんのお宅で朝食を頂きながら打ち合わせをさせていただきます。
出発時刻までは時間もあり、マミさんのご提案でお昼過ぎまでコーチン市内を観光しましょうということになりましたが、翌日以降の旅の安全と「アガスティアの葉」が見つかることをインドの神様にお願いしたいと、まずはコーチン市内・エルナクラムのシヴァ寺院に立ち寄ることにします。
ちなみに、ケララ地方におけるヒンドゥー教は他の地方より厳格で、寺院へはヒンドゥー教徒しか立ち入れず、いくつかのヒンドゥー寺院では、ヒンドゥー教徒ですらお詣りの際は男性はドーティー、女性はサリーといった正装を求められます。
つまり外国人の私が訪れても、寺院の敷地内に入れれば良い方で、場合によっては塀の外から寺院を遥拝する形となります。
それでも、外からでも手を合わせられれば十分と、マミさんにお願いして車を用意していただきます。
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コーチン市内にあるマミさんのご自宅から車で走ること20~30分、ほどなくしてエルナクラムのシヴァ寺院に到着します。
エルナクラムのシヴァ寺院は思っていたより開放的な雰囲気で、神殿敷地内にも入ることができ、周囲を取り囲む伝統的なケララのヒンドゥー寺院を前に、私も相方も大満足です。
しかし敷地内中央の神殿前広場には進めるようですが、やはり神殿の中に入ってお詣りすることは難しそうで、広場前から手を合わせてお祈りさせて頂くにとどめます。
中央の神殿を前にして右側に、寺院の造りが中央の神殿とは趣きが違う、色鮮やかなゴープラム(塔門)の神殿が目に入ります。
見上げると、ゴープラムにはガネーシャ神も彫られているため、象の姿のガネーシャ神が大好きな私たち、こちらの神殿にはガネーシャ神も祀られているかしら、と入り口から内部を窺い知ろうと覗き込みます。
しかし、神殿内部は暗くてよく見えません。
未練がましく目を凝らす私たち、見かねたマミさんが、入れないのは仕方ないけど中の様子くらいは聞いてあげると、入り口近くのインド人に話かけ始めました。
すると、どうやら寺院の関係者のようなそのインドの方、意外なことに、神殿内でのお詣りをしても良いとのお返事をくださいます。
インド人の気が変わらないうちにと、私たちは慌てて、近くの花売りのおばあさんから一握りの花束を売ってもらい、神殿に入らせていただきました。
神殿の中は思ったよりも広く、壁面も床も石造りです。
この時期のケララの気温は30度近く、神殿入り口で靴を脱いだ素足に、石畳の冷たい感触が心地よく感じます。
神殿内の正面中央には数段高く積まれた石段があり、ゴープラムに祀られているご神体が鎮座されていると思われますが、この時は扉が閉まっていて中はわかりません。
一方、入り口の右側には別の祠があり、こちらは扉が開いており、中にはやはりお目当てのガネーシャ神が祀られています。
中央のご神体は扉が閉まっているせいか、多くの人はガネーシャ神へのみお詣りされていましたが、やはりこの神殿のご神体にお詣りするべきと、手にした花束はオイルランプの灯る石段にお供えさせていただきました。
「シヴァ神に、私たちの旅を無事をお祈りいたします」
神殿中央で祈念した後、一同揃ってガネーシャ神にもお詣りさせていただきました。
お詣りをしながら、ふと2年前の視察ツアーの際の出来事を思い出します。
2年前のケララ州コッタカルにあるアーユルヴェーダ・ホスピタルからの帰路、スケジュールが詰まっていてインド観光があまりできない私を、通訳ガイドのクリシュナンさんが、とあるジャングルの中に建てられたシヴァ寺院に連れて行ってくれました。
クリシュナンさん、本名はジャヤクリシュナンさんといい、「ジャヤ」とは「勝利」「栄光」という意味があります。
つまり「勝利と栄光のクリシュナ」という意味かと思いますが、私たちは言いにくいので「クリシュナン」さんと短く呼ばせていただいています。
当時、ケララ地方のヒンドゥー寺院がそれほど厳格であったことを知らない私は、クリシュナンさんに「せっかく行くのなら、神殿に入ってシヴァ神にお詣りしたい」とお願いします。
今考えるとかなりの無理を言っていたわけですが、それでもクリシュナンさんは連れて行ってくれた寺院の方にお話して、外国人の私が神殿に入る許可を得てくださり、おかげで、生まれて初めて訪れたヒンドゥー寺院で、正式なインドの参拝をさせていただくという貴重な経験をさせていただきました。
以来、来日される機会の多いクリシュナンさんとは年に1~2回はお会いさせていただいていますが、この時クリシュナンさんの当時の配慮を思い出し、あらためて心の中で感謝をします。
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シヴァ寺院を後に、コーチン市内の南インド料理店で美味しいケララ料理を頂き、フォートコーチン観光を済ませると、時間はもうチェンナイ行きの国内便の出発時刻を迎えます。
コーチン空港まで送って頂いて、マミさんとは2日間ほどの短いお別れ、私たちは空路チェンナイへ向かいます。
チェンナイ到着は夜の20時、飛行機の窓からのぞくチェンナイ市街の夜景を見ながら、翌日に控える「アガスティアの葉」に少しずつ期待と不安を覚えます。
「アガスティアの葉」、20年程前に日本でも紹介され当時ブームにもなりましたが、その後に法外な金額を要求する業者もあらわれ、内容についても真偽が問われるケースが少なからず出てきたことから、懐疑的な意見も少なくありません。
私自身も、半信半疑ではありながらも、一方でやはり俗人的な関心には敵わず(苦笑)、「何事も体験すべし」と、今回の訪問に繋がりました。
しかし「アガスティアの葉」を見つける作業も、「葉」を検索する「ナディ・リーダー」からの質問のやり取りで半日以上かかることもあるといわれ、その日のうちに見つからないこともあるようです。
移動時間を除いて、私たちのチェンナイ滞在期間は1日のみ。
自分の「アガスティアの葉」を見つけることはできるのか。
どのような結末が待っているのか想像もつかないまま、たどり着いたチェンナイのホテルのベッドで床に就きました。
翌朝、現地までは車で2時間以上かかるということで、早朝5時30分にホテルを出発、タミル地方の田園風景の続く田舎道を、「アガスティアの葉」を開くことができる「アガスティアの館」まで、用意された車でひた走ります。
ホテルでは、マミさんが、チェンナイでの私たちの行動をサポートするために手配くださった、通訳ガイドのSさんと合流しました。
チェンナイで生まれ育ち、数年前までは日本に滞在されていた経験もある、実直で頼りがいのある大変感じの良い方です。
「アガスティアの葉」について聞いてみると、Sさんも長年チェンナイにいるが、訪れるのは今回が初めてとのこと。
それゆえ、私たちの訪問をきっかけに、周囲のインドの方に色々と「アガスティアの葉」についてリサーチもしてくださったようで、チェンナイ近郊では、これから行く「アガスティアの館」がやはり一番信頼性が高そう、という情報を得たと教えていただきます。
一方で、真偽については、インド人の中でも様々な意見があり、Sさんとしては関心があるので、とても楽しみにしていると仰ってくださいます。
車内ではSさんの日本滞在中の話題で盛り上がり、話が尽きない内に時間は過ぎて、気づくと車は「アガスティアの館」のある街に入ります。
ドライバーさんが携帯電話で詳細な場所を確認し、10分ほどで目的地の「アガスティアの館」の前に到着しました。
「アガスティアの館」、佇まいは通りに面したそれほど大きくはない建物ですが、中に入るとウナギの寝床のように奥行きがあります。
1階部分はいくつかの小部屋に分かれていて、複数の来訪者に同時に対応できるようになっています。
2階は広めの部屋が2~3程用意されていて、どうやらこちらでナディ・リーダーとのインタビューが行われるようです。
私たちは予約をしていたこともあり、さっそく2階のインタビュー・ルームに通されます。
「葉」の検索に長時間かかることが想定されているのか、こちらの部屋はエアコンの効きもよく、座り心地のよいゆったりとした椅子も用意され、比較的快適です。
しばらくすると「葉」の検索を担当するナディ・リーダーも入室してきます。
いよいよ「アガスティアの葉」を体験できるのかと、期待と不安でドキドキしてきます。
「これから、あなたの『葉』を探すための質問をはじめますが、回答にはイエスかノーで答えてください。よろしいですか?」
通訳ガイドのSさんの声が静かに響いて、「葉」の検索がはじまりました。
「あなたは火曜日に生まれましたか」(ナディ・リーダー)
「いいえ」(私)
「あなたには弟がいますか」(ナディ・リーダー)
「いいえ」(私)
「あなたは今30歳ですか」(ナディ・リーダー)
「いいえ」(私)
「あなたはインドで生まれましたか」(ナディ・リーダー)
「いいえ」(私)
ナディ・リーダーは、私が「いいえ」という回答するたびに、手元の「アガスティアの葉」を次にめくっていきます。
私も相方も、目の前の「アガスティアの葉」に興味津々で、古い「葉」に書かれている、文字の様な、記号の様なものに目を凝らします。
質問の途中で聞いてみると、書かれているのは古代タミル語だとか、通訳ガイドのSさんも一緒に覗き込みますが、Sさんも初めてみるとのことでした。
そんな好奇心のかたまりになっている私たちの様子をよそに、ナディ・リーダーの質問は淡々と進んでいきます。
「あなたは結婚していますか」(ナディ・リーダー)
「はい」(私)
「あなたのお母さんは既に他界されていますか」(ナディ・リーダー)
「いいえ」(私)
いくつかの質問には「はい」と答えられるものもありましたが、次の質問で「いいえ」となると、また次の「葉」に移ります。
繰り返される質問に、これは「葉」が見つかるまで本当に数時間、あるいは半日以上も掛かるかなと覚悟をしはじめたその時、突然それまでの質問には出てこなかった父親の名前についていきなり聞かれます。
「あなたのお父さんの名前は○○ですか」(ナディ・リーダー)
「(!)・・・はい(なんでそんなにピンポイントに!)」(私)
「お父さんは公的機関に関わる仕事をしていますか」(ナディ・リーダー)
「(!)・・・はい」(私)
この後に続けられる2~3の質問に、いよいよ「葉」が見つかった(!)と思ったその時、
「あなたのお父さんは既に他界されていますか」(ナディ・リーダー)
「・・・いいえ」(私)
ナディ・リーダーの方は無表情に次の「葉」をめくっていきます。
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と、ここまでは順調(?)に進められていた「葉」を検索する作業でしたが、実はこの後、思いもよらぬトラブルが起こります。
「アガスティアの葉」自体の真偽について議論したいわけではないので、この時のトラブルの詳細についてはここでは記載しませんが、ただこの時に起こった出来事は、目の前の「葉」に対する私たちの信頼感を、大きく揺るがせるには十分なものでありました。
このため、その後1時間ほどの質問のやり取りから、結果として、私の「アガスティアの葉」は出てくるのですが、湧き上がる懐疑心から、目の前の「アガスティアの葉」が本当に自分のものであるとの確信が得られないという、なんとも困った状況が生まれます。
同席していた相方と通訳ガイドのSさんも、同じようなことを考えている様子で、納得できないという思いが表情に表れています。
室内に微妙な空気が漂う中、最後に「アガスティアの葉」に書かれている私の前世について、何事もなかったかのようにナディ・リーダーが淡々と語り続けます。
「この人は過去世において、ケララのブラーミンの家系に生まれ・・・」
見つかった「アガスティアの葉」は本当に自分のものなのか。
釈然としない思いが残りつつも、手順に則って進められたリーディングを終えた私たちは、「アガスティアの館」を後にします。
・ ・ ・ ・
翌日、通訳ガイドのSさんと別れ、私たちは午前の便でチェンナイを発ち、再びマミさんの待つケララに到着します。
チェンナイでの状況を既に耳にしているマミさん、少しがっかりしている私たちを励ますように、この日はアーユルヴェーダ施設でのオーナム祭のイベントを案内したり、コーチンでも有数のインド占星術師の方にご紹介してくださるなど、あちこち連れて行ってくださいます。
そのおかげで、相方は夕方には機嫌は直り、以降の滞在先となるホテルに到着する頃には、美しいケララの自然に囲まれたゴージャスなアーユルヴェーダ・リゾートの施設も手伝って、チェンナイのことなどすっかり忘れ去っています。
あらためて「女性は強い」と感心しながら、自分もせっかくの南インド旅行、残った旅程を満喫しようと気分を切り替えます。
滞在先のアーユルヴェーダ・リゾートでは、ケララの自然やエコ・フレンドリーな施設だけでなく、バックウォータークルーズや本格的なアーユルヴェーダ施術など様々なアクティビティも揃っています。
その中に、私たちの今回の旅の目的のひとつでもあった、ホテル周辺のアレッピーと呼ばれる地域にある、ヒンドゥー寺院を巡るツアーも用意されています。
ヒンドゥー寺院巡りでは、4つのヒンドゥー寺院と1つのジャイナ教寺院を巡ります。
とはいえ、やはりケララ地方のヒンドゥー寺院、外国人の観光客は神殿内には入れませんので、神殿敷地内から建築物を見学したり、周辺の観光地に立ち寄るツアーとなります。
それでもインドの伝統文化を見聞きしたり、事前の説明では、浅草のように寺院前には仲見世のようなものがあり、お土産の買い物もできると聞いて、私も相方も喜び勇んで申し込みます。
実際に参加をしてみると、単に寺院を見学するということだけでなく、寺院でお世話をしているケララの祭事に活躍する「象」や象使いの方と触れあったり、寺院周辺の色々な歴史建造物も案内して頂けるなど、本当に盛り沢山な内容です。
最初の寺院はシヴァ神の神殿、二番目はジャイナ教の寺院、三番目は「蛇」の神様の神殿と案内されていき、すっかりただの観光客と化した私たち、あちらこちらで写真を撮って、お土産屋さんを見つけたら物色してまわります。
そんな中、4つ目の大きな寺院に到着したときのことです。
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ガイドさんの英語が聞き取りづらく、細かな話が分かりませんでしたが、どうやらこちらには「ピーコック(孔雀)」の神様か祀られているとのこと。
「インドの神様にも『孔雀』の神様なんているのか~」
と興味津々で眺めていると、ガイドさんが上半身の服を脱げと言い始めます。
「あなたはこの神殿に入って、こちらの神様にお詣りします」
「インド人でもこの神様の前では、男性は上半身の服を脱ぐので、早く脱いでください」
こちら、地元の厳格な寺院のようで、他の寺院に比べても外国人が入れる雰囲気ではないこと、くわえて、聞いたこともない「孔雀」の神様の寺院だから、と躊躇していると、「早く脱いで!」と服を脱がされます。
服を脱ぐのは男性だけでよいとのことで、相方の服装はそのまま、意を決して神殿に進みます。
やはり、生っちろい肌の東洋人が神殿に入ってくることは珍しいようで、多くの現地の方から好奇な視線を送られます。
本当に怒られないのか、と心配しながら進んでいくと、隣のインドの方が、この神様は正面から向き合って拝顔するものではなく、少しかがんで上目遣いにお顔を拝むものだと、優しく教えてくださいます。
孔雀の神様だから首が長くて、それでかしらなどと勝手なことを思いながら、(色々ありましたが)それでもここまでの旅の無事に対する感謝を込めてお詣りさせていただきました。
寺院の敷地内には本物の孔雀も飼われています。
ガイドの方に、どんなご利益があるのか聞いてみると、孔雀だから害虫をついばむことにちなんで、障害除去のご利益があるのだとか。
今後の仕事が順調にいくことを願って、孔雀にも有難く手を合わせます。
ケララ最終日、この日はタイミングよくケララ州最大のお祭り・オーナム祭にあたります。
オーナム祭とはケララの古代の神王マハー・バリを祝福するもので、お世話をしていただいたマミさんもホテルを訪れ、ホテルのゲストもスタッフも一緒にお祝いをして、楽しい旅の最後を飾ります。
オーナム祭の余韻を残しつつホテルを後にした私たちは、夜にはコーチン国際空港に到着、帰国の途につきます。
出発までの空港での待ち時間、空港内の土産物屋を散策していると、気になるものを見つけました。
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バックウォーター・クルーズに参加した際、ボートに飾られていた飾り物が素敵だったので、コーチン市内で色々探しましたが見つからず、それがこちらのお店で土産物として売られています。
表はガネーシャ神、裏面は見たことのない神様の図柄が描かれているように見えましたが、あまり気にせずに自分用にと包んでもらいました。
お土産もたくさん買って、様々なイベントやアクティビティに参加した今回の南インド・ケララ旅行、物質的には(笑)大変充実した内容として終了します。
さて、帰国後、やはり「アガスティアの葉」の件が気持ちの中ですっきりしません。
本物だったのか、そうではないのか。
頭の片隅で悶々としてきます。
そこで、今回のチェンナイの「アガスティアの館」とは別の場所で行われているという「アガスティアの葉」を、あらためてお願いしてみようと思い立ちます。
もし、異なる内容のものが出てくれば、少なくともどちらかは、或いは両方とも「私のものではない」という可能性が出てきますが、逆にもし同じ内容が出てくるようであれば、チェンナイを訪れたことも全くの無駄ではなかったことになるのではないかと考えます。
「未練がましいわねぇ」という相方の冷たい視線を浴びながら、お願いした方からの結果を待つことにします。
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依頼をしてから待つこと数週間、私の「アガスティアの葉」が見つかったとの連絡が届きます。
冷ややかな視線を浴びせながらも、興味はある相方も、一緒に、英文に訳された「葉」の内容を読み始めます。
しばらく読み進むにつれて、相方の表情に次第に驚きの色が表れてきました。
文章の構成や細かな表現などのディテールは異なりますが、おおむねの内容はチェンナイでみつかった「葉」の内容と「同じもの」だったのです。
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チェンナイの「葉」は本物だったということなのか。
意外な、でも心のどこかで期待もしていた結果を前に、否定的な理性がチェンナイでの出来事も訴えかけてきます。
答えの出ない問答が、再び頭の中を巡り始めます。
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読み終わった「アガスティアの葉」にあらためて目をやると、過去世における私の「名前」が目に留まりました。
こうした名前はインドではよくある名前なのかと、何気なくパソコンで検索してみます。
すると、画面に人物ではない、見慣れないヒンドゥー教の神が現れました。
<<ムルガン神>>
ムルガン神とは、スカンダやカールティッケーヤなど64もの名前を持つ軍神といわれ、手には槍を持ち、孔雀にまたがって空を翔る姿で描かれます。
「孔雀・・・」
脳裏にヒンドゥー寺院巡りで神殿に立ち入ることの出来た、あの「孔雀」の寺院が浮かび、名前も忘れてしまった寺院について、アレッピーという地域を頼りに、あらためて検索してみます。
<<ハリパッド・シュリ・スブラマニヤ寺院>>
(ここは孔雀のお寺ではなく)「ムルガン神」が祀られている、ケララでも最古の寺院のひとつとされる。
「きっとご縁があったんだねぇ」と、相方も思わぬ事実に少しびっくりしています。
しかし、不思議な予感にかられ、続けて、旅の最初に訪れた、エルナクラムのシヴァ寺院をもう一度調べてみます。
<<エルナクラム・シヴァ寺院>>
中央神殿は伝統的なケララ様式により「シヴァ神」が祀られているが、北側に聳えるタミル様式のゴープラムの神殿には「ムルガン神」が祀られている。
「最初にお詣りさせて頂くことができた神殿も、ムルガン神の寺院だったのね」
重なる事実に驚きが隠せない中、帰国後に机の上に置いたままの、空港で購入した飾り物に視線が向けられます。
飾り物を手に取って、ガネーシャ神が描かれている飾りの表を、恐る恐る裏面にしてのぞいてみると、そこには、画面に映し出されているものと同じ、孔雀に乗った美しい「ムルガン神」の姿。
積み上げられた「偶然」に、二人ともしばらく言葉が出ませんでした。
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「ムルガン神」は、南インドでは「スブラマニヤ」と呼ばれています。
以下、届いた「アガスティアの葉」を抜粋します。
「この人は、過去世において南インド、ケララ地方のアムダバナムと呼ばれる土地に生まれている」
「様々な仕事を手がけ、幸せな人生を送っていたこの人の、父親の名前はクリシュナン」
「そして、彼の名前はスブラマニヤ」
※今回のコラムは、特に「アガスティアの葉」を推奨するものではなく、また、その一方で否定をするものでもありません。
※あくまで個人が体験した出来事について、時系列にそのままご紹介させていただきました。
※「アガスティアの葉」の真偽についての議論などは、固くご遠慮いたしますので、ご了承ください。