インド・ケララ州コーチン市にあるナガルジュナ・アーユルヴェーダセンター、こちらの施設はケララ州政府よりアーユルヴェーダの優良施設として認定され、その取り組みも大変高い評価を受け、ケララ州より数多くの賞を受賞しています。
今回のアーユルヴェーダ・インタビューは、このナガルジュナ・アーユルヴェーダセンターの主任ドクターである、クリシュナ・ナンブーディリ先生にお話をいただきました。
クリシュナ先生はヒンズー教の祭事やアーユルヴェーダに携わるブラーミンの家庭に生まれ、1989年にコンバトル大学にてB.A.M.S.(Bachelor of Ayurvedic Medicine and Surgery)の学位を取得。
その後アーユルヴェーダ大学(AVC)に講師として勤務され、1992年から2008年までナガルジュナ・アーユルヴェーダグループでチーフドクターに従事、2008年以降は診療に携わるだけではなく、ナガルジュナ・アーユルヴェーダグループのディレクターとしても活躍されています。
クリシュナ先生は、ケララ州では著名なアーユルヴェーダ・ドクターとして大変有名な方であり、これまでにも、世界中から訪れた様々な病気を抱える4,000人以上にのぼる患者の方の治療をされています。
ナガルジュナ・アーユルヴェーダセンターもさることながら、施設を率いるクリシュナ先生ご自身のアーユルヴェーダの伝承に対する不屈の努力と貢献も高い評価を受けており、2004年にKerala Youth Guidance Movement よりBhishak Bhushan Awardを受賞、ICTAM(Intenational Congress on Traditional Asian Medicine)に招かれた際に発表された「糖尿病に対する伝統的なアーユルヴェーダ療法の活用」と言う論文も、世界中の医療関係者から賞賛を受けています。
(インタビュアー)
まずはクリシュナ先生のアーユルヴェーダについてお考えをお話いただけますか?
(クリシュナ先生)
哲学、科学、そして鍛練。これらはアーユルヴェーダにおいて非常に重要なものです。
本来の「美しい」アーユルヴェーダの姿というのは、これらの3つの要素がバランスよく組み合わされたものと考えています。
アーユルヴェーダは、5,000年以上受け継がれている伝統的な「智慧」の体系であり、かつての人々はアーユルヴェーダと共に生き、鍛練を行ってきました。
彼らにとって、アーユルヴェーダとは人生哲学であり、生活の科学でもあったのです。
ただ病気を治すためだけのものではなかったということです。
このような3つの要素を網羅していることが、アーユルヴェーダの「美しさ」に繋がっていくものであると思います。
そして、それは同時に総合的な医療としての姿であるともいえ、私たちの生活の中において非常に広範囲にわたって影響を及ぼすものであるとも考えます。
この世界においてはマクロとミクロのものが存在しています。
マクロとは宇宙であり、その中に属している私たちはミクロとなります。
アーユルヴェーダでは、ミクロである我々がマクロである自然に近づき共生することは、よりよい幸せをもたらすものと考えます。
また、その自然に近づき共生するためには、精神的にも肉体的にも「純粋」さが必要なのだと説明しています。
なぜなら自然というのは非常に純粋なものだからです。
そして「自然との共生」、実はこれがアーユルヴェーダの究極の目標の1つとなります。
人間というのは、自然に近ければ近いほど、自身が抱える問題は少なくなるものです。
もう少し踏み込んでお話すると、アーユルヴェーダの目的においては、人々の生活を肉体的・精神的・社会的に向上させることをあげています。
そしてこれらは「智慧」だけがそれを成しえると考えられ、単に「知識」のみでは偏ったものになると考えられています。
アーユルヴェーダは医療技術の進歩からもたらされたものではなく、古代の人々が熟慮した上で得た知恵と経験の集大成です。
古代には現代のような研究所はありませんでしたし、科学者もいませんでした。
しかし、人々は自然から得られるもののうち、どれが何に必要か、あるいは効き目があるのかといったことを学んでいきました。
そうした積み重ねこそが「智慧」であり、実践を通して得られた経験なのだと思います。
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こうした伝統的な思想や考え方ゆえに、医療としてのアーユルヴェーダは大変特徴的なところがあります。
アーユルヴェーダには「スワスタブリッタ(Swasta Vritta)」という基本概念があります。
スワスタブリッタとは、「健康を維持するための有益な助言」、簡単に言うと予防法を意味します。
これはつまりは「予防医学」であるということであり、アーユルヴェーダにおける大切な基本事項の1つとなります。
治療法についても特徴的です。
人が病気になれば当然治療を行うわけですが、現代医学は科学技術の発展からその知識量自体は大変膨大なものがありますが、今なおその実質的な療法体系は、いわゆる対症療法でしかありません。
ここはアーユルヴェーダ医療とは大きく異なる違いです。
アーユルヴェーダ医療の特徴は、病気を治療するだけでなく、その根本を治療する点にあります。
例えば、体のどこかに痛みがあるから鎮痛剤を使う、不眠症だから睡眠導入剤を使う、アーユルヴェーダ医療はこういった治療を行うものではありません。
病気そのものを治療するのではなく、病気の原因を根本から治療するのがアーユルヴェーダの大きな特徴なのです。
アーユルヴェーダでは、病気の原因を探るために、身体のバランスの崩れている点を見つけ出そうとします。
そして、本来の健康な状態を、身体のバランスが適切に取られている状態を探し出し、身体の健康状態の基本を見出していきます。
こうした考え方こそが、広義の意味でのアーユルヴェーダ医療の基本的なコンセプトであるといえると思います。
(インタビュアー)
アーユルヴェダにおける身体のバランスと体質についてお話いただけますか?
(クリシュナ先生)
どんな動物でも植物でも、もちろん人間も、その身体に「バランス」というものを持っています。
身体の「バランス」なくしては、私たちは身体を支えることもできません。
そもそも身体の「バランス」、そして体質とは何でしょうか。
アーユルヴェーダでは、体質について、ただ単に身体の構造・組成の在り様を指すものと考えません。
アーユルヴェーダにおける「体質」とは五大元素の組み合わせを意味します。
それは人間だけでなく、この世に存在するあらゆる生物に共通するものです。
具体的には「地」「水」「火」「風」「空」の5つ要素の組み合わせを指し、そしてこれら5つの要素は身体の様々な「機能」に置き換えられていきます。
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西洋医学では主に身体の「臓器」の研究を重要視しますが、アーユルヴェーダ医学では「臓器」よりもそれが持つ「機能」の方を重視しています。
たとえば、人体の85%は水で出来ていますが、それらは常に身体内を循環しています。
身体内にある5リットルもの血液も絶えず流れ続けているのですが、私たちはこのことをごく自然に当たり前のことのように思っていますが、よく考えると非常に重要な働きです。
なぜって、もし血液の流れが、身体内の循環が停止してしまうようなことになったら大問題になるのですから。
血液の流れは身体における大切な機能であり、そのような身体のすべての動きを司っているのが「ヴァータ(ワダ)」と呼ばれる構成要素です。
そして、これとは別にもうひとつ重要なものとして「ピッタ」と呼ばれる構成要素があり、この「ピッタ」は代謝を司ります。
私たちが食べ物を食べるときに、それを栄養に変化させて消化・吸収させるのが「ピッタ」ということになります。
「ピッタ」は、野菜や穀類、魚や肉など、すべての食物を消化し、栄養として体内に吸収させる働きを持っているのです。
しかし、近年、代謝に関する病気が多く見られるようになってきています。
食べ物はピッタの働きによって身体内で消化され栄養に変化しますが、このピッタの活動の中心となるのが「アグニ」と呼ばれる「消化の火」となります。
このアグニはすべての食物を栄養に変換しますが、現代社会の不規則な生活スタイルは、これらのピッタやアグニの働きを乱し、ひいては深刻な病状を引き起こしています。
人間は、正常な代謝の働きがあってこそ、成長、つまりは身長が伸び、適切な体重を維持していく等が出来ます。
代謝は身体における最も重要な働きのひとつであると言えますね。
さて最後に、その身体を肉体として構成するものが、「カファ(カパ)」と呼ばれるものになります。
カファは、細胞の分裂を促して、身体の基本的な単位を構成します。
身体はこれらの3つの基本的な構成要素、ヴァータ・ピッタ・カファによって成り立っており、そして機能しています。
そして、これらの3つのバランスがとれていることが健康の証であると、アーユルヴェーダでは定義しています。
これらの3つのバランスは、個人一人ひとりによって異なります。
ですから、アーユルヴェーダにおける治療についても個々人によって異なってくるのです。
一人ひとりの体質に合わせて治療を行う、これがアーユルヴェーダ治療のの大きな特徴でもあります。
(インタビュアー)
クリシュナ先生は南インド・ケララ州を中心としてご活動を続けられていますが、ケララ・アーユルヴェーダの特徴などはありますか。
(クリシュナ先生)
ケララはアーユルヴェーダの地といっても過言ではなく、一般にはアーユルヴェーダの発祥の地ともされています。
しかし、実はアーユルヴェーダの生誕の地はケララではなく、ヒマラヤ地方がその始まりの地と言われます。
本来、アーユルヴェーダにおけるすべての知識体系はヒマラヤに端を発したとされ、ケララ地方にはおよそ3,000年以上前に伝えられたとされています。
しかし、ケララが現代のアーユルヴェーダにおいて非常に重要な地であることは間違いありません。
その理由の一つに、私たちの祖先の存在があげられます。
400~500年前、ケララ地方には伝統的なアーユルヴェーダの知識を継承する特別な家系がありました。
正確には、当初は18の家系が存在していたのですが、後世には少しずつ減少して8つの家系が残ります。
一方、同じ頃、北インドではアーユルヴェーダは衰退の一途をたどっていました。
現代医学、西洋医学が台頭してきていたのです。
しかし、このケララ地方では状況は異なります。
数多くのバックウォーターに囲まれて熱帯雨林の広がるケララ地方には、人口が少なかったこともあり、当時インドに植民地侵攻していたイギリス人もこの地方に訪れることはなかったのです。
それゆえ、西洋文化から持ち込まれる西洋医学もケララ地方には広がることもなく、古くからの伝統的なアーユルヴェーダの姿を変わらず維持し続けることができました。
人々は、蛇に噛まれた時や骨を折った時など、生活の中で何か問題が起こると、すぐにアーユルヴェーダの医師のところに脚を運びます。
多くの人々から頼られる存在であるこの地方のアーユルヴェーダの医師たちは、自ずと強い責任感を養っていくようにもなり、よく学び、そして数多くの研究・調査を行うようになります。
そうした先人たちが積み上げてきた膨大な智慧と知識が、現代の「ケララ・アーユルヴェーダ」となって伝わっているのです。
ケララは、今ではアーユルヴェーダの土地となりました。
ケララには約15,000種類もの植物が存在しています。
それはこの地域が様々な植物が育ちやすい気候と環境に恵まれているからです。
そしてこの気候と環境は、アーユルヴェーダの治療にも非常に適していると考えられています。
ケララ・アーユルヴェーダでは、アーユルヴェーダの治療を行う場所として最も適した環境は「川辺」であるとしています。
バックウォーターに囲まれて、川辺も大変多いこのケララ地方は、アーユルヴェーダの効果を引き出すのに最適な場所であるといえるでしょう。
伝統を引き継いできた文化と、恵まれた気候と環境こそが、アーユルヴェーダにおけるケララの持ち味であり、最大利点でもあるのです。
(インタビュアー)
現在のケララ州における医療事情、また先生が多く治療に携わっている病気についてお聞かせいただけますか。
(クリシュナ先生)
インドの約70パーセントの人々は、まだ伝統的な薬を服用しています。
ケララ州でも同様です。
インドではいまだに多くの人が都市部以外に住んでいますが、その一方で医師たちは都市部に集中しています。
なぜなら、主要な産業や職業も都市部に集中しているためです。
それゆえ、充実した施設や設備を使おうと思うと、医師たちは都市部に集中するしかないのです。
こうした都市部とそれ以外の地域における異なる医療事情については、人々の受けられる医療サービスにも偏りを生み出すわけですから、今後は改善されていくべき課題だと思いますね。
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私たちのクリニックに訪れる患者さんの中で目立って多い病気としては、四十肩や五十肩、ヘルニア、筋肉痛、神経痛、リュウマチ、肩こり、といった関節炎の症状の方、またメタボリックシンドロームの方などがよく来られます。
ケララ地方ではこういった症状の方が本当に多いですね。
他の地方のアーユルヴェーダ医師からは、最近は皮膚病の相談も多くなっているとも聞いています。
これは、現代医学で皮膚病に対する効果的な治療法が確立されていないことから、アーユルヴェーダに治癒する見込みを求めて来られる方が増えてきているからだと思います。
また、不妊治療のために訪れて来られる方も大変多くなってきています。
結婚したばかりのご夫婦においてこうした問題を抱えていることが多く、夫婦共働きで忙しく、子供をつくることを考える余裕がない状態が続いてしまった場合等によくあります。
これらは、ご夫婦共に忙しいがゆえに生活が不規則になり、体の中に毒素が溜まってきてしまっていることも原因にあげられます。
それゆえ、子供をつくるまえに良好な健康状態を手に入れようと考える方もいらっしゃいます。
こうした治療には、アーユルヴェーダのパンチャカルマが有効です。
パンチャカルマは、体から毒素を排出することができ、身体の健康を取り戻し、大きく改善することができます。
もちろん回復には個人差があり、1回のパンチャカルマで全快される患者さんもいらっしゃれば、複数回の治療が必要となる方もいます。
ただ、私たちのクリニックにおけるこれまでの治療の結果からも、パンチャカルマが多く方に有効であることが認められています。
(インタビュアー)
日本でも社会問題になっている「うつ病」に関して、クリシュナ先生のお考えやご意見をお聞かせ下さい。
(クリシュナ先生)
様々なストレスは、精神の不安定をもたらします。
そして精神の不安定こそが「うつ病」を引き起こすものだと考えます。
ストレスは、「健康の維持」という面でも大きな問題となります。
そもそも「ストレス」とは、「過剰な期待」によってもたらされるものだと私は考えています。
様々な場面において「望みすぎること」、そのことが「ストレス」そのものになっているのではないかと思うのです。
ストレスは脳の機能に様々な異常を起こします。
そして西洋医学における「うつ病」の治療についても大変多くの特殊な「薬」が使われますが、それ自体が問題となる場合もあると考えています。
これは服用した多量の「薬」が血液に流れ込むことによって、その時点で身体が「自然な状態」ではいられなくなってしまうと考えるからです。
本質的な原因は「ストレス」なのです。
私たちは患者さんに、「心のバランス」を取ることを心がけるようアドバイスしています。
具体的には、瞑想やヨガ、カウンセリングを通して行います。
その一方でパンチャカルマなど、身体面でのアプローチも併用しながら、心身共に自然な状態にすることに重点をおいて治療を行っています。
(インタビュアー)
最後にインタビューをご覧の日本の皆さんへメッセージをお願いします。
(クリシュナ先生)
アーユルヴェーダでは、人が生きていく中で、自然との調和を大切にすることを一番に説いています。
しかしながら、現代の多くの人々は、私という個人が、あるいは周囲の人々が、つまり「人間」のみがお互いの人生に影響を与えるものだと考えがちです。
私たち自身の人生を自分で管理しコントロールしていると、または周囲の他の人々の繋がりのみが人生を左右すると、そう思いこんでしまうことが少なくないのです。
しかしこれは間違っています。
私たちは自然の一部としてこの世界に存在しているのであり、周囲の環境や人間以外の多く命によって支えられているのです。
私たちが自分の頭の中で考えている以上に、私たちの生命は複雑であり、そして自然が与えてくれる恩恵は膨大で深い意味があります。
言い方を変えれば、私たちには見えない力が私たちの人生のほとんどをコントロールしているのであり、見える力が影響を与えているのはほんの一部だということです。
ですから、私たちの身の回りにあるすべてのものを受け入れて、それらを好ましく、そして自分にとってプラスになるものであると考えてください。
目の前の出来事のひとつひとつに不安を感じたりしないよう、また物事に対して望み過ぎずたりしないよう、そして心に落ち着きを取り戻すようにしてください。
そのような物事を前向きに考えていくことが、人生を幸せに過ごすしていくことが出来るポイントだと思います。
そして、それこそがアーユルヴェーダが最終的な目標としている「健康で幸せな人生を送る」ことに繋がるものと心から信じています。
(インタビュアー)
貴重なお時間を頂いてありがとうございました。
(クリシュナ先生)
ありがとうございました。
(取材協力)
エバーグリーントラベル
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(Nagarjuna Ayurvedic Centreについて)
(エバーグリーントラベルについて)
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エバーグリーントラベルは、南インド・ケララ州コーチン市にある、日本人による、日本人のための、日本人の心遣いをポリシーとした現地手配専門の旅行会社です。
日本国内にあまり知られていない南国の楽園・南インド/ケララ州の魅力を、現地在住の日本人スタッフが安心・安全に、そして丁寧にご紹介しています。
またエバーグリーントラベルでは、医療ツーリズムとして、インド伝承医学アーユルヴェーダの紹介に力を入れています。
インド・ケララ州現地におけるアーユルヴェーダ体験をはじめとし、医療機関が提供するアカデミーでのスクーリングなど、ニーズに応えたアユールヴェーダの適切な施設のご紹介、滞在手配を行っています。
(エバーグリーントラベル)
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(アーユルヴェーダライフ管理人より一言)
日本の薬剤師資格もお持ちのエバーグリーントラベル代表の真美・デービスさん。
インド・アーユルヴェーダに対する想い入れも大変強く、その取り組みもとても情熱的です。
アーユルヴェーダライフ管理人は、そんなエバーグリーントラベルさんの取り組みに賛同し、ケララ・アーユルヴェーダのスクーリングを希望される方に、現地スクール事情の事前説明やご相談も承ります。
主に首都圏の方が対象となりますが、それ以外の方でもメール等で宜しければ、お気軽にご相談ください。
(お問い合わせ)
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