今回のアーユルヴェーダ・インタビューはインターナショナル・シャンティランカ・アーユルヴェーダセンターのアブドゥル・ハサン・モハメド・マウジュード先生にインタビューの機会をいただきました。
アブドゥル・ハサン・モハメド・マウジュード先生は、スリランカ国立コロンボ大学アーユルヴェーダ学部を卒業後、大阪大学薬学部に入学して生薬学を勉強され修士課程を取得、その後、引き続き、大阪大学医科大学院にて、医療科学の分野、生理学に関する研究をされ博士課程を取得。述べ7年間におよぶ日本在住で、日本に精通、日本語も堪能です。現在は、国立コロンボ大学にて薬理学専門のシニア講師としてアーユルヴェーダ医学生の指導をされる傍ら、国立ラージギリヤ病院にて患者の治療もされています。また、スリランカにある日本人専用クリニック、「インターナショナル・シャンティランカ・アーユルヴェーダセンター」のコンサルティングドクターとして、日本人の治療やセラピスト養成講座の講師としても活躍されています。
今回のインタビューはスリランカ・国立コロンボ大学内のハーブ園で行わせていただきました。
(インタビュアー)
医師・研究者として、これまでスリランカと日本において精力的なアーユルヴェーダの普及活動をなさってこられた先生のアーユルヴェーダに対するお考えをお話いただけますか?
(ハサン先生)
本来のアーユルヴェーダは、医療だけでなく、現代科学を超えた膨大な知識の結集だと言えます。
しかし、現在インドやスリランカで実践されているアーユルヴェーダは、人々の健康に関する領域に焦点が当てられています。
そういう意味では、アーユルヴェーダは、人が健康で幸せに人生を全うするための智慧を説いている学問と言えると思います。
人が病気になったとき、投薬や手術などの対症療法で治療するのではなく、「生き方」そのものを見つめ直すことで、病気のもとを断つという考え方がアーユルヴェーダです。
生き方とは、食事・運動、睡眠などの生活習慣全般と、人間関係や考え方などの精神面も含めます。
人間は、この世に存在する全てのものの一部にすぎません。
自然環境や人的環境、様々な環境の一部として、周りとバランスを取りながら生きています。
環境が変われば私たちの心も体も直接的に影響を受けます。
そのことを理解していれば、心身のバランスが崩れた時、それが環境の変化によるものであれば、その原因を特定し、改善する方法を見出すことができます。
それがアーユルヴェーダの教えです。
人間は、ひとりひとりが異なったプラクリティ(体質)を持っています。
その体質は、一生変わることはありません。
だから、自分の体質を知り、その弱点を知り、どんな環境の変化にも順応できるような智慧のある生き方をすることが、健康と長生きの秘訣です。
アーユルヴェーダの考え方は、人間を同一とみなさず、個性を尊重した実に優しい考え方だと思います。
(インタビュアー)
日本では一般的にアーユルヴェーダはインドの伝承医学と認知されていますが、スリランカのアーユルヴェーダとインドのアーユルヴェーダの違いはどのようなものでしょう。
(ハサン先生)
先ず始めにスリランカでアーユルヴェーダが広まった経緯をお話します。
数千年前、アーユルヴェーダはインドの僧侶が仏教を広めるためにスリランカに渡ってきました。
それゆえ、当時の僧侶達はアーユルヴェーダの知識を持った医師でもありました。
仏教の教えは、たちまちスリランカ中に広まり、スリランカは真の仏教国として栄えました。
戒律の厳しい小乗仏教界で、僧侶たちは病気で苦しむ人々を無償で治療し、アーユルヴェーダ自体も、たちまち庶民の間に根付いていったのです。
それがスリランカにアーユルヴェーダが広まった経緯です。
しかし、アーユルヴェーダがインドから伝わるまで、スリランカに医療が施されていなかったわけではありません。
スリランカは薬草の宝庫ですから、それを使った独自の伝統医療が既に存在していました。
今日のスリランカアーユルヴェーダはインドのアーユルヴェーダとスリランカの伝統医療の考え方を合わせた統合医療です。
ですから、薬草の使い方は、アーユルヴェーダ以前の知識がまだ残っています。
その点はインド・アーユルヴェーダとの違いと言えると思います。
南インドでも、スリランカの薬草を治療に用いている病院や薬局があります。
スリランカには、秘法のようにして伝え続けられる薬の作り方が多く残っており、現在のスリランカ政府も、これらの知識を守り尊重しています。
(インタビュアー)
なるほど。それでは、現在のスリランカのアーユルヴェーダ医療についてもお話いただけますか。
(ハサン先生)
病院のシステムや形態は日本と似ています。
個人で開業している外来クリニックから各地区にある民間病院、政府管轄の地方病院から大学病院まで様々です。
個人開業医は、内科や外科など自分の専門だけを扱っているところが多いです。
大学病院など規模の大きな病院には、内科、外科以外にも小児科、耳鼻科、老人科や精神科など、様々な病棟があります。
特徴的なのは、国営の病院の治療費が無料だということだと思います。
入院費も薬代もいりません。
どんなに貧しい人でも、国は、最低の医療保障をしています。
(インタビュアー)
具体的なアーユルヴェーダ診療はどのようなものでしょう。
(ハサン先生)
アーユルヴェーダの治療は「1.食事の改善」「2.運動や睡眠など生活スタイルの改善」「3.薬」「4.完全浄化」という順番で進めていきます。
病状によっては外科による手術も行います。
最初に行う治療方法は食事療法です。
人間の体は食べ物から摂取する栄養を元にして形成されていきます。
強い体を形成するためには、食べ物の内容や量、食べる時間などはとても重要な要素となります。
すべての人が同じ内容の食べ物や量を摂ればいいというわけではありません。
その人のプラクリティ(体質)に合った食事を摂らなければいけません。
食事療法は治療としてだけでなく病気の予防としてもとても大切です。
(インタビュアー)
食事療法において、食材を選ぶポイントなどはあるのでしょうか。
(ハサン先生)
食材を選ぶポイントは二つあります。
1つは「常に新鮮なものをいただく」ことです。
例えば果物や野菜であれば、収穫してすぐに食べることができれば、それが理想的です。
調理済であれば冷蔵庫などで保管せずにその日の内に食べます。
冷凍したものであれば保存期間はできるだけ短くし、解凍したらすぐに食べるようにします。
要は、少しでも食材の栄養が保たれている間にいただくことです。
フレッシュな食べ物は体の毒素を排出して栄養を与えてくれるだけでなく精神面でも良い効果をもたらします。
暖かい食べ物やスープ、飲み物も良いでしょう。
うつ病やストレスによる不安や悩みなどの症状も食事療法で改善が期待できます。
インスタントやジャンクフードなどは体内に毒素を溜め込み、それが原因で疲労感が増し、吸収力、消化力が下がり体調を崩します。
その結果、ストレスや不安、悩みを抱えやすくなり、病気へと進行していきます。
アーユルヴェーダでは、これらの問題も、正しい食生活を行うことで、自然に解消されていくものと考えます。
さてポイントの2つ目は「味」です。
味の理論は、アーユルヴェーダの特徴だと思います。
アーユルヴェーダにおける味の定義には6種類あり、それぞれ「甘味」「酸味」「塩味」「辛味」「苦味」「渋味」です。
「甘味」は、イライラしたり、興奮したり、ストレスで疲れているときに神経を沈めてくれます。
その一方で、摂りすぎると肥満や眠気、食欲不振になりやすくなるというデメリットもあります。
「酸味」は食欲を増進させたり、消化を促進、また心臓に滋養を与えてくれます。
しかし摂りすぎると胸焼けや胃炎、消化不良、血液に悪い影響を与えます。
「塩味」は食欲の増進、唾液の形成、凝りの解消や体を柔らかくしてくれます。
摂りすぎると喉の渇き、失神、ほてり、白髪などの原因になります。
「辛味」は消化促進、食べ物吸収を促進し脂肪を除去し、血液をサラサラにして循環よくします。
しかし「辛味」の摂りすぎは体力の減退や下痢、性的能力の低下を及ぼします。
「苦味」は解毒作用や抗炎症作用、肝臓の浄化、腸内ガスの排出を促します。
しかし摂りすぎると体力の減退、やつれ、性的エネルギーの減少につながります。
最後に「渋味」は便を固め下痢を治しますが、その一方、「渋味」を摂りすぎると便秘や口内の乾燥ややつれ不感症につながります。
体調が優れないときは、普段の生活で身近にある食品から体調に合わせてバランスよく味を選ぶようにします。
(インタビュアー)
アーユルヴェーダにおける薬と西洋医学の薬の違いはどのようなものでしょう。
(ハサン先生)
アーユルヴェーダの薬と西洋医学の薬は、根本的に異なります。
西洋医学の薬にも、植物を原料にしたものはありますが、植物の成分の一部を抽出して薬を作ります。
ところが、アーユルヴェーダの薬は、植物の原型を損なわず、生のまま、あるいは乾燥させて用います。
根、茎、葉、実などの部位は、どれも植物の生命維持のためには欠かせないものです。
それらの部位がバランスをとって、その植物の生命を維持しているのであり、そのバランスこそが、人間のバランスをとるのに役立つ要素だというのが、アーユルヴェーダの考えです。
もし、その中にある成分の一部だけを抽出したとしたら、その成分は、他の成分との関わりを持たない別のものとなり、むしろそれはアンバランスなものである可能性があり、本来の役目を果たさないだけではく、別の問題をもつことになります。
即効性のある西洋医学の薬が、一方では副作用の問題を抱えているのは、深刻な現実です。
(インタビュアー)
最後にインタビューをご覧の日本の皆さんへメッセージをお願いします。
(ハサン先生)
日本はとても豊かで便利な国です。
私は薬理学の勉強のために日本で暮らしていたことがありますが、和食は体に良く、栄養のバランスもとても考えられたものばかりでした。
しかし最近では、インスタント食品や冷凍食品、加工食品など健康を損ねる可能性があるものが溢れています。
日本人の優れた知識やセンスが生み出す便利さの追及は、場合によっては人体の本来の機能を鈍くさせ、徐々に病気になりやすい体を作ってしまう可能性があります。
アーユルヴェーダでは体に良いものを摂取することと同時に、体内の悪いものを排出することが健康を維持にするため必要だと考えています。
体に溜まった毒素を排出し浄化する方法はパンチャカルマです。
オイルマッサージで体の中の毒素を排出経路に集めた後に、薬の力を借りて浣腸や嘔吐などで体外に排出します。
できれば、1~2年に一度、このような体内浄化をして、メンテナンスを心がけていただくといいですね。
パンチャカルマが無理なら、自分で簡単にできる方法として夜寝る前のオイルセルフマッサージと足湯(入浴)があります。
マッサージの後に発汗をして毒素を排出することを継続することで、健康維持と若返りも期待できます。
また食事だけでなく、生き方そのものに対しても考える必要があります。
家族や友達、会社の仲間など人間関係もとても大切です。
どのような人とどのように関わっていくかはその人の人生に大きく影響します。
相手を思いやり、嘘をつかず正直に生きること。
アーユルヴェーダの目的は人を幸せへと導くことです。
正しい知識と情報をもって正しい行動をとることは、現代社会ではとても難しいことかもしれませんが、日本の皆さんには、太古の賢者が築いたアーユルヴェーダの智慧を毎日の生活の中に少しでも取り入れて、心も体も健康で若々しく長生きしてほしいと思います。
(インタビュアー)
今日は貴重なお時間を頂いてありがとうございました。
(ハサン先生)
こちらこそありがとうございました。
(取材協力)
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(インターナショナル・シャンティランカ・アーユルヴェーダセンターについて)
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(インターナショナル・シャンティランカ・アーユルヴェーダセンターについて)
「インターナショナル・シャンティランカ・アーユルヴェーダセンター」はスリランカ・ガンパハに設立された、日本人専用のアーユルヴェーダ・カレッジとクリニックを併設したアーユルヴェーダ・ヘルスリゾート施設です。
施設は、スリランカ南部・コロンボから約100km、50エーカー(約6万坪)の紅茶畑とシナモン畑に囲まれた自然溢れる立地環境にあります。
日本語対応のスリランカ人スタッフが常駐し、地元の人々との交流など、スリランカを肌で感じることができます。
併設の日本人専用アーユルヴェーダ・クリニックでは、アーユルヴェーダ医師による綿密な診断と、トータルケアやボディメンテナンスを受けることも可能です。
(インターナショナル・シャンティランカ・アーユルヴェーダセンター)
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(シャンティランカについて)
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シャンティランカ・アーユルヴェーダカレッジは、スリランカに伝わる伝統的アーユルヴェーダの知識を学び、実践していただくためのカレッジです(本校:スリランカ・ガンパハ、分校:東京・大阪)。
スリランカに政府公認のヘルスリゾートとパンチャカルマクリニック、教育センターをもち、日本では専門サロン(大阪)を運営しております。
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